ナノバイオモデリング研究室(鈴木研) 研究室紹介

2013年度に着任された鈴木先生を紹介します.

■略歴

生まれは愛知県です.高校は地元の進学校に通いました.高校の3年間は,部活動のラグビーに明け暮れました.教わった物理の先生が非常に楽しそうに授業をしてくれたので,それで物理の興味が強まった記憶があります.図書館のブルーバックスをよく読んでいました.

東京大学理科一類に入れたのはよかったのですが,ここでも血迷って?アメリカンフットボール部に入りました.それで大学4年間も部活に明け暮れました.この頃は大学院のことも殆ど知らなかったのですが,研究開発に携わるなら院に行った方がよいというアドバイスを受け,機械系の院に進学しました.院では,研究活動に没頭しただけではなく,論文や学会発表を通じて世界とつながっていることが嬉しくて,博士まで進んでしまいました.当時は今ほど情報が氾濫してなかったので,損得ではなく,ちょっとしたきっかけで比較的安易に進路を決めていた気がします(私だけかもしれませんが…).博士課程では,教授に無理を聞いていただき,UCLAに2年ほど留学し,いわゆるMEMS(微細加工,マイクロマシン)を学びました.

学位取得後は,駒場にある生産技術研究所で約5年間助教を務め,その後大阪大学で約5年間准教授を務め,現在に至ります.

■研究室の名称

研究室名を,「ナノバイオモデリング研究室」としました.ナノ~マイクロスケールの部品を使って,バイオ(生物)のモデルをつくっていく中で,それを支配する現象や法則を考え,新しい技術に発展させるという意味が込められています.コンセプトとしては,従来からあるバイオミメティクス(生物模倣)という言葉とオーバーラップしますが,「モデリング」という機械工学を連想させる言葉を選びました.「ナノバイオ」はいわゆるbuzzwordを拝借していますけれども.

■研究の興味と方向性

この100年程で,人類は科学と工学技術を飛躍的に発展させました.それでも,何十億年という進化の結果としてできた生命のシステムは,まだ完全に理解されていません.生命は,外部から物質を取り入れて自分自身を複製し,タンパク質や細胞を組織化して複雑な構造や機能を生み出します.材料(原子)やそれを司る物理・化学の法則は同じですが,生命のシステムでは,これらの「組み合わせ方」や「使い方」に特徴があるのです.

当研究室では,生命のシステムが採用している法則を学び,その特徴を抽出した「モデル」をつくることで,新しい工学技術の創成を目指します.特に,ナノメートル,マイクロメートルの小さな部品から,より大きなスケールの構造やシステムができる原理を探求し,新しい技術開発を行います.

■研究事例1:細胞を模擬した反応容器

生命科学や化学では,大きな試験管で溶液を混ぜて,様々な検査や分析を行います.一方,細胞に目を向けてみると,ピコリットル(10-12 L)からフェムトリットル(10-15 L)という微細な空間の中で様々な反応が起こっており,小さな反応容器(マイクロリアクター)と見なすことができます.微細加工技術や流体工学を使って,細胞を模したマイクロリアクターの作製,およびその中での生化学反応などの評価を行います.簡便で使いやすく,かつ再現性のよいマイクロリアクターが開発されれば,近い将来に病院の検査や環境測定でこういったデバイスが使われるのをみることになるでしょう.

細胞の環境を模擬したマイクロリアクター(左)とマイクロ流路チップ(右)

■研究事例2:人工細胞膜

細胞の境界は,「リン脂質」という石けんのような両親媒分子の膜でできています.この膜は非常に柔らかいので,細胞は自在にその形を変えることができます.また,細胞膜には「膜タンパク質」という特別なタンパク質があり,環境変化やシグナル分子に応答したり,物質を取り込んだり排出したりしています.この細胞膜を人工的につくりだすことで,細胞の環境を模擬したマイクロリアクターや,膜タンパク質を保持したバイオ・環境センサーを開発します.

細胞膜の構造(左)とそれを人工的に再現した細胞膜チップ(右)

■学生のみなさんへ

当研究室では,企業などに就職した後の研究開発とは違って,すぐには社会で使われないかもしれないけれどもいつか役に立つかもしれない,面白いと思える研究を自由な発想で行うことを重視します.一見難しそう,できなさそうと思えることにチャレンジして解決の糸口を見つけていく過程は,例えられないほど楽しいものです.基礎に十分とりくむこと,

当研究室はバイオに学ぶ技術を扱いますが,必要な生物学の経験や知識は研究の中で学ぶため,あらかじめ必要ありません.バイオを模して(モデルして)組み立てるというアプローチをとるため,工学や物理の考え方を重視します.研究の中で,マイクロ・ナノスケールのものづくりを学ぶことができます.

私自身,大学生のときに小さな構造物や細胞を顕微鏡でのぞいて,小さな世界に魅せられたことがいまの研究のモチベーションになっています.小さな世界を研究して,大きな夢を追いましょう!


 

 

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