2013年度 精密機械工学科卒業式

全体の卒業式後に,各学科に分かれて学科卒業式を行いました.
2013年3月24日(月),14:00~,5333号室

学科主任祝辞(大隅先生)

みなさん、ご卒業おめでとう。また、ご家族の皆様にも、お祝い申し上げます。おめでとうございます。本日、106名の諸君を無事に送り出すことができましたことを、精密機械工学科教職員一同も、心より喜んでいます。

さて、多くの学生諸君にとっては、社会に出るための全ての教育課程が終了し、これまで学校で学んできたことを、いよいよ社会で実践し、給料をもらう身となります。皆さんの中には、自分の力を試すことができるとわくわくしている人、会社でうまくやっていけるのか不安を覚えている人、様々な人がいることと思います。そのような皆さんに、これからの心構えについて、この場を借りてアドバイスをしたいと思います。

 最近は、日本国内だけでなく、世界の情勢が日々目まぐるしく変化し、これから10年後、20年後、我々を取り巻く社会環境がどのように変化しているのか、予測がとても難しい時代となりました。日本を代表する大企業ですら、10年後に存続しているのかどうか、もはや断言はできません。このような時代に常に適応し、活躍を続けていくには、どのようなことを心掛けていけば良いのでしょうか。

英語ができる、コミュニケーション能力が高い、変化に対応できる、など色々な能力が頭に浮かびますが、私からのアドアイスはただひとつ、他人から信頼され、頼られる人になることです。あの人なら大丈夫、あの人に任せておけば安心、という存在になることです。最後は人なのです。そして、そのような人になるために、今日は3つのアドバイスをしたいと思います。1つ目は向上心を持って勉強すること、2つ目に大局的な視野を持つこと、そして3つ目に人の期待を上回ることを目指すことです。

人に信頼されるには、それだけの知識、能力を備えていなくてはなりません。それには、向上心を持って、自ら勉強に取り組む姿勢が何より重要です。常に、昨日までの自分より少しでもレベルアップしようという向上を持ち続けて下さい。特に英語や数学は若いうちが勝負です。まずは自分の専門に対して、周りの誰よりも勉強をし、職場のトップを目指すつもりで勉強して欲しいと思います。皆さんの中には、これまでの勉強を活かして仕事をする、と考えている人もいるかもしれませんが、本当の勉強はこれからです。知識はすぐに古くなっていき、これから勉強したり覚えたりしなくてはならないことの方が遥かにたくさんあります。しかもその時、大学までのような教師は、もはやいません。皆さんの教師は皆さん自身なのです。

しかし臆することはありません。皆さんがこれまで学んできたものは、講義の知識だけではありません。これらを通じて身に着けた勉強のやり方、ものの考え方が、一番の、そして一生の財産なのです。自信を持って取り組んで下さい。

2つめに、大局感、すなわちグローバルな視点で物事をとらえる力についてお話します。これは、様々な決断を行う際に、判断を少しでも的確に行うための根拠を与えてくれる素養です。そしてこれは、本学科が卒業生に身につけて欲しい最も重要な素養でもあります。機械システムの例でいえば、機械の性能を向上させようと部分部分の性能を上げていっても、あるレベル以上には性能が上がらなくなったり、一部分の性能だけを無駄に上げることになったりします。その結果、そのような製品は価格が高くなり、競争力を失ってしまいます。一方、ある時点で機械システム全体を俯瞰すると、部分部分の性能はどうあるべきかが分かり、性能をより向上できたり,無駄を排除することができるのです。そして、このように物事を俯瞰的に捉えることは、機械システムだけでなく、社会のあらゆる場面で必要となります。

しかし残念ながら日本では、大局的な視点で物事を捉えることのできる人は限られ、ほとんどの人は身近なこと、そして目先のことに目を奪われてしまいます。これは万人にことごとく当てはまります。技術者の例を知りたければ、湯之上隆氏の“日本半導体敗戦”という本を読んでみて下さい。日本の技術者たちが何に拘って、その結果韓国や台湾に競争で負けて行ったのかがよく分かります。この他、古くは第2次世界大戦の日本軍から、省庁の縦割り行政による弊害、福島の原発事故で話題になった原子力村など、事例は限りなく挙げることができます。

なぜ、そのように多くの事例があるのかと言えば、実は、ローカルな視点のみからの主張は、全体を俯瞰して見れば明らかにマイナスとなる場合でも、当事者の視点からは当然の正義である場合が多く、組織の中にいるとマイナス面に気づけないのです。中央大学の大先輩で、本学の理事長もされたセブン&アイホールディングス会長鈴木敏文氏の「本当のようなウソを見抜く」という本があります。このタイトル、本当のようなウソ、は正にローカルな論理そのものです。この他、常識を疑え、というたぐいの本は皆同じです。

大局観を養っていくには、対象とするシステムの背景、外側にある世界を常に意識し、そこで自分のやっていることを位置付ける、という訓練が重要です。人間は自分に都合の悪い事実には目を向けようとしないという心理的バイアスを持っています。そのため、絶えず自分への反論を自ら考える習慣を付けないと、大局観はすぐに失われてしまいます。絶えず自分の考えや決断に、批判的な目を忘れないようにして下さい。

また、勉強として、世界経済や政治情勢に関する本やニュース記事を意識して読むことも必要です。私は大学への通勤で、片道50分ほど電車に乗りますが、ほぼ毎日、読書に当てています。以前は論文を読んでいましたが、ここ数年は精密工学会生産自動化専門委員会の委員長を務めており、製造業を取り巻く環境を勉強するため、経済、社会、歴史などのビジネス書を読んでいます。このおかげで、自分のやるべき研究対象そのものを見直すことができ、また、なぜロボットがなかなか産業に成長しないのかが手に取るようにわかってきました。このような視点はロボット研究を続けていても見えてくることはありません。皆さんも空いた時間を有効活用して読書をすれば、スマホでゲームをやっている両隣のライバルにすぐに大差をつけることができます。

最後に、常に人の期待を一歩上回るという努力を心がけて下さい。私はラーメンが好きで、よく本で店を調べて食べに行くのですが、先ごろ行った店の壁に“たのまれごとはためされごと”という言葉が掛かっているのを見つけ、自分がいつも無意識に心掛けてきたことにハッと気が付きました。頼まれたのだからそれだけやればいい、“適当にやっといて”、と言われたからいい加減にやっておく、このような発想をする人は、決して人に頼られる人にはなれません。皆さんも誰かに仕事を頼んだことを想像すれば、すぐに理解できることと思います。これは心掛けひとつで実践できますので、是非肝に銘じて欲しいと思います。

以上、これからも勉強の習慣を続ける、大局観を養う、そして、人の期待を上回る努力をする、この3点を是非これからも心掛けて欲しいと願っています。

最後になりますが、これからも大学時代に得た人間関係を大切にしてください。大学時代の親友は第2の家族のような存在です。また、中央大学は上場企業役員数では全大学中5位、国会議員も4位という全国トップクラスの大学です。そして、社会で活躍する卒業生たちのヒューマンネットワークを一番の財産としています。そのネットワークを十分に活用し、更に、そのネットワークの一員として、大学や後輩へのアドバイスを、これからも是非お願いいたしまして、お祝いの言葉とさせていただきたいと思います。

本日は、おめでとうございました。

以上

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