2013年度精密工学専攻学位授与式(修了式)

学科卒業式に引き続き,精密工学専攻修了式が開催されました.
2013年3月24日(月),15:00~,5334号室
その模様をお伝えします.

 

 

 

 

 

専攻主任の祝辞(大隅先生)

みなさん,修了おめでとうございます。また,ご家族の皆様,本日博士号を取得されました皆様にもお祝い申し上げます。本日,55名の皆さんを博士課程前期課程修了生として,2名の方を後期課程修了生として無事に送り出すことができますことを,精密工学専攻教職員一同も心より喜んでいます。

私は,卒業生に対するメッセージとして,これからの人生を実りあるものとするために,人に頼られる人を目指して欲しいと要望し,そのために3つのアドバイス,向上心を忘れずに勉強を続けること,物事を大局的に把握する目を持つこと,そしていつも人の期待を少しでも上回る努力を心掛けること,をお話いたしました。皆さんにも同じ言葉をお贈りすると共に,この2年間,修士論文研究で研鑽を積んだ皆さんには,更に一歩進んで,社会のリーダーを目指して欲しいと思います。人に使われる人,ルールを守る人ではなく,人を使う側の人,ルールを作る側の人を目指して下さい。

現代は技術進歩とそれに伴う社会の変化が大変目まぐるしく,これまで培った技術や製品があっという間にコモディティ化し,生産現場もどんどんと海外に出て行っています。また,技術進歩に伴うイノベーションで,これまで当たり前にあった製品が突然姿を消すことも珍しくありません。世界最大手のフィルムメーカーコダックはデジカメの出現で倒産しました。また,新興国との競争で,日本の大手家電メーカーがテレビやPC事業から次々と撤退を決めています。皆さんの配属された部署が,ある日突然なくなってしまう,といったこともあり得ない話ではないのです。また,このような事態に直面しなくとも,これからの世界で技術者として活躍を続けようと思えば,環境の変化に対して受け身となるのではなく,仲間と共に,常に変化を先取りして行動することが求められます。つまり,時代を先取りできる人,仲間から信頼される人が必要なのです。

まず,時代を先取りできるためには,本学科の求めるグローバルな視点を,空間的にも時間的にも意識することが重要です。自分の置かれた環境や行っていることが,世界の中でどのような位置付けにあるのか,世界は今後どのように変化していくのか,その中で自分のポジションはどう変化していく可能性があるのか,このような観点を常に持ち,世界情勢を絶えずウォッチしていかなくてはなりません。もし,自分の専門の存在価値が無くなりそうだと感じたら,次にどのような能力が求められるのかを考え,先手を打ってその分野を勉強しておくことが必要です。リンダ,グラットンという人の書いたワーク・シフトという本には,連続スペシャリストという言葉が出てきます。これは,時代と共に変遷していくコアとなる技術を,絶えず自分の専門分野にしていくことが必要である,という意味です。

しかし,今の皆さんには,このことは取り立てて難しいことではないのではないでしょうか。皆さんはこの2年,修士論文の研究を通じて,研究の成果だけではなく,研究のやり方そのものを修得しました。対象が変わっても研究のやり方は変わりません。皆さんはこの2年間で,自分で課題を見つけ,それを研究として設定する能力,課題を解決する能力,その意義と重要性を人にわかりやすく説明する能力を訓練してきました。指導教員からテーマを与えられた人であっても,それを自分の言葉で説明するためは,そのコンセプト,研究の課題設定と手法の妥当性,研究成果の意義を自分のものにすることが必要で,それを考える過程は同じです。これらは2年前に就職し,企業の業務に専念している皆さんの同級生と比べた時に,皆さんの強みとなっているはずです。是非,大学院で身に付けたことを武器として,勉強を続けて欲しいと思います。

また,仲間から信頼される人になるには,責任感,使命感が求められます。よく,リーダーシップのある学生が求められている,という話を耳にすると思いますが,このリーダーシップは使命感から生まれます。課題に直面した時,自分の課題として捉え,自分ならどうするかを考え,そのための行動を起こす,これがリーダーシップのおおもとです。これには,他人の指示を待つのではなく自分で解決しようという主体性,チームとしての課題であれば,仲間を説得するためのコミュニケーション能力と忍耐力,そして行動力が必要です。これらは,課題を解決するのは自分であるという使命感があって初めて可能となります。

私の携わっているロボットの研究を例に挙げれば,東京電力福島原発の事故の際,事故発生当初,アシモのようなロボットがなぜ使えないのか,日本のロボット研究者は何をやっているのか,と非難の声があがりました。しかし,原発の事故を想定したロボットは日本にはありませんでした。原発では事故はあり得ない,という建前を守るため,電力会社が原発事故対応ロボットの必要性を無視してきたのが一因ともされていますが,とにかく,ロボットには産業用をはじめ,家庭用,医療用,宇宙用,レスキュー用,建設用など,膨大な用途があり,原発事故用ロボットという特殊用途をターゲットとした研究者はいませんでした。しかし,多くのロボット研究者は自身の研究対象に関わらず,事故後すぐに一同に会し,研究者ネットワークを利用して世界中から役立ちそうな技術情報を集めてWebに公開し,ロボット系の3学会,更には日本学術会議を通じて,災害に対し使命感を持ってすぐにでも対応する準備のあることを声明として発表しました。

最初に投入されたのは原発用に改良されたアメリカの軍事用ロボットでしたが,その後,原子炉建屋の上層階まで上がり中心的な活躍をしたのは,日本の大学の研究者が開発したQuinceというロボットです。このロボットは,阪神淡路大震災を経験した,当時神戸大学に籍を置いていた数名の教授が中心となって立ち上げたNPO法人,国際レスキューシステム研究機構(IRSという組織が開発した,瓦礫の中の人命救助のためのロボットです。これを,原発事故に役立てて欲しいと改造して持ち込んだことが,最終的な原発の冷温停止にまで繋がりました。今も,多くのロボット研究者が原発の廃炉に向けた作業に,強い使命感を持って協力しています。この活動に加わっている研究者は皆,本当に尊敬に値する方ばかりで,世界的にも高く評価されています。真のリーダーと言えるでしょう。

皆さんも,自分の回りの閉じた世界の仲間にでは無く,広く社会に貢献することを心掛け,使命感,責任感を持って物事に取り組んで下さい。企業で製品を開発する人も,単に会社の利益のためではなく,製品を通じた社会貢献を行うのだという自覚と良心を忘れないことです。その時,評価は後から自ずとついてきます。そしてきっと,お金では得られない満足感,充実感を得ることができるでしょう。

最後になりますが,これからも皆さんの母校である中大精密を忘れず,困ったことがあればいつでも遠慮なく訪ねて下さい。また,外から見た中央大学,精密機械工学科への注文,後輩へのアドバイスなどをお願いできればと思います。

それでは,皆様のこれからの活躍を期待し,ご挨拶とさせていただきます。

本日は,まことにおめでとうございます。

以上

関連記事:

タグ:

文字の大きさ